企業が社員を個人事業主化するというニュースを近年よく耳にすることがあります。仕事量や時間を自分で決めることができるのは働く側からすれば大変ありがたいことです。しかし、これまで安定して貰えた給料や社会保障がなくなってしまうというデメリットがあります。
この個人事業主化は社員が求めていたものではなく、会社側が一方的に方針として打ち出されたものです。良いことばかり並べたてて実は体の良いリストラではないのか?と勘繰りたくなりますが、実際に社員から個人事業主として働いている方に聞いてみると良い受け止め方をされているようで、この制度の評判は良いようです。
ヘルスメーターなど計測器の大手メーカーであるタニタの個人事業主化制度について検証していきたいと思います。この制度を打ち出したのが2016年ですので5年経過していますが、社員からフリーになって待遇面や気になる収入は?色々と気になりますね。
タニタの個人事業主に応募した人の待遇は?
まず本題に入る前に個人事業主とフリーランスの違いを説明します。個人事業主は、法人を設立せずに個人で事業を営んでいる人を指します。税務署に「開業届」を提出して事業開始の申請をすれば、個人事業主として独立したとみなされます。
対してフリーランスは、開業届を提出せずに個人として独立して仕事を請け負う働き方の人を言います。タニタは社員のフリーランス化と謳ってますが、正確には個人事業主となります。雇用契約から業務委託契約に切り替わるので税務署へ届出はされているからです。税務上では同じ括りとなりますが、開業届を提出することで青色申告といった税の優遇措置を受けることができます。
この制度でタニタを退職して、個人事業主となった二瓶琢史さんが、個人事業主となった経緯をまとめたブログがあるのでこちらも併せてご覧ください。
タニタが社員を「フリーランス化」健康的な働き方を目指す、
この制度を利用して個人事業主に変わると初年度に2年間の業務委託契約を締結します。例えば1年経ったところで契約内容の見直し・報酬額の見直しも含めて契約更新をいたします。このときの契約期間もまた2年間です。かぶっている1年は上書き更新いたしますので、古い1年間はなかったことになります。3年目も同じように、1年経ったところで上書き更新。これを繰り返していきます。
こうすることで、ある時タニタ側から「契約更新しません」ということになったとしても、1年間はまだ既存の契約が残っている状態になります。
個人事業主側からすれば、いきなり仕事がなくなって収入が急に激減したという状態を回避することができますし、仕事を発注している会社側も、「その業務をあるとき突然放り出されてしまって、次の引き受け手がいないといったリスクを回避できるという話になるわけです。
次に社会保障です。タニタの場合は社員時代の社会保障の同じような仕組みや受け皿も存在します。詳しくは下の図表を参考にしてください。社員と個人事業主で大きく違うのは厚生年金です。個人事業主になりますと厚生年金にはもう加入できません。そのため厚生年金に代わる年金制度に加入し直す必要がでてきます。例えば国民年金基金や個人型の確定拠出年金などに任意で加入することになります。すべて自分で運用管理しなければならないので少々面倒にはなります。
退職金代わりとして小規模企業共済というもので活用できます。これは個人事業主が毎月の掛け金を積み立てておいて、廃業するときに積み立てた掛け金ベースで返戻金が受けられるものなのです。こうしてみると個人事業主になってもサラリーマン時代に劣らずの社会保障を受けることはできるようです。
個人事業主になって3割弱の収入アップ
働き方改革で個人事業主となられたタニタの元社員さんたちのその後については二瓶さんのブログに記載されていますが、平均で約3割弱の手元現金の増加という効果を得ることができたそうです。社会保障面でバックアップがなくなることを考えれば、この増加分はまずまずと言ってよい成果と言えるのではないでしょうか。
そして何より個人事業主となれば会社からの拘束もなくなり、自分の都合で仕事を行えるのは大きいのではないでしょうか。仕事さえきっちりやれば早くに仕事を切り上げても良し、長期間の休暇を取るのも良し、すべて自分の都合で仕事ができるというのは何より魅力と言えるのではないでしょうか。
それでも課題が山積の個人事業主化
今回タニタを一例として挙げましたが、他にも名の知れた大企業が社員の個人事業主化導入を実施しているところがあります。何せ導入された間もない制度ですから、いくらでも問題点が出てくることは間違いありません。先述しましたが、タニタも他企業も個人事業主化導入は企業側が社員に持ち掛けていることです。
言うならば企業側の裁量によって制度化の枠組みが決められてしまうというところが課題となるのではないでしょうか?このビジネスモデルが広まれば懸念されるのが雇用の安定化です。
サントリーが45歳定年制とか、電通が40歳以上は一部個人事業主化とか言い出しているが、子育てや介護の真っ只中、更年期が始まったり、体力も無理がきかなくなったり、背負うものが多くなるのが40代。そんな時期だからこそ、欲しいのは安定した雇用だろう?と不安定な雇用で生きて来た私は思うよね。
— 大椿ゆうこ🌺社民党・参院選全国比例区予定候補者 (@ohtsubakiyuko) September 21, 2021
そして導入に際しては、強制があってはならないことです。表面上は応募したとされているものも、実は社内から圧力によってやむなく応募したということもあり得るでしょう。
タニタのビジネスモデルは後ろ盾がありリスクの低いものです。後ろ盾が何もない独立よりかなり安全です。しかし今は良くてももしタニタが傾いたら・・リスク面色々探したらキリがありませんが、今後もこのような個人事業主化を模索してくる企業は出て来ると思われます。その時には決して社員への強要ではなく、魅力的なビジョンを出して共感されるものであることが望まれます。