秋深くなる今日この頃ですが、最近の経済ニュースを見ると円安が進んで物価が上がった、ガソリン価格が上がって消費が落ち込むなど悲鳴の声が取り上げられることが増えています。現在円安と報じられている為替相場は一米ドル113から114円付近。しかし6年くらい前は120円台だったので、この頃に比べればまだ円高だと思うのですが?
更にさかのぼれば日本円は対米ドルで200円、50円前は360円という時代もありました。それに比べれば円高なのですが、どうも時代の移り変わりとともに、通貨の価値も変わってきているようなのです。ということで今回は為替相場について書いていきたいと思います。時代の背景と照らし合わせながら為替の推移を見てみると興味深いですよ。
近代為替の変動を見てみる
こちらに過去50年の為替相場を現したグラフを掲載していますのでご覧ください。
1971(昭和46年8月)年までは一ドル360円の固定相場でした。これ以前は当然ながらドルの価値が今より高く、輸入品もべらぼうに高いし、海外旅行など金持ちしかできないものでした。
昭和46年と言えば日本は高度成長時代で、物価が上昇すると平行かそれ以上に給料が急伸する凄い時代でした。それまで諸外国と比較して、通貨が安かった日本は諸外国と肩を並べる経済力を築いていったのです。
為替相場が円高になるきっかけとなったのは1971年のニクソンショックや1985年のプラザ合意が有名ですが、日本の経済力上昇からして日本円が強くなるのは至極当然の結果だと言えるでしょう。年々強くなる日本円は円高不況を招くと言われましたが、結果的に国力を増すことになりバブル経済を生み出すことになります。
バブル期の対ドル相場は150円、現在の相場からしてかなり円安ですが、この当時からすれば急進した円高に凄い危ぶまれていたものです。この円高で輸出産業を中心に大きく業績を伸ばし続けた国内企業は、世界各国の企業の中でも上位を占めるなど日本企業は我が世の春を謳ったものです。何十億もの高額な絵を日本人が落札してニュースになるなど、金持ち日本人が続々誕生したものです。
大惨事や不況で自国通貨高になる謎
バブル期の為替相場は150円でしたが、その後突然70円台という未曽有の超円高が日本に襲い掛かります。1995年の阪神・淡路大震災が口火となりました。
この79円という当時史上類を見ない超円高は、それまでの日本の強い国力がもたらした通貨高とは違い、有事による惨劇が招いたものでした。その後、復興により円高も改善され100円台に戻りましたが、2011年に起きた東日本大震災で円高の記録を更新し、75円台にまで急騰することになります。円地震で大被害が出ると景気は停滞する可能性が高く、円が売られそうなものですが、なぜ円高になるのでしょうか?
これについては様々な説が飛び交っています。代表的に挙げられているものの一つには保険会社が大惨事による保険金支払のため手持ちの外貨を大量に売却し、日本円に替えることが予想され、投機筋による為替操作も働いて超円高を招いたという説もあります。しかし考えてみてください、世界で大惨事や不況に陥って自国通貨高になるのは日本くらいのものですから。
もう一つに円高が進行したときにリスク回避のために、安全資産である円が買われるというもの。このフレーズをメディアがよく使うことがあります。リーマンショックのように米国と欧州が金融危機に苦しんでいる一方、日本の銀行は相対的に健全だということであれば、世界中の株が下がって比較的安全な円が選好されるというのは納得できますが、日経平均株価が下落しても円が買われるという現象は違和感しかありません。
いずれも根拠なき憶測に過ぎません。不況や大惨事で通貨高になる不思議な国日本、世界に類のない特殊なケースと言えます。
現時点での適正な為替相場はいくらなのか?
行き過ぎた為替変動は、国が強制的に為替相場を操作して安定化を働きかけることもあります。これを為替介入といいます。日本の場合は財務大臣が為替介入の権限を持っており、日本銀行に指示を出し、日本銀行が介入を実行します。
これまで行われた為替介入の実施年月日と直前のドル円相場がこちらになります。
最後に為替介入が行われたのはちょうど10年前の民主党政権時代になります。遠い昔のように思います。ご覧のように介入する為替の名目レートも目的も時代によって大きく異なるのが興味深いですね。円安介入という珍しいケースもありましたが、基本的には行き過ぎた円高の是正するための介入が殆どです。
時代の移り変わりで名目レートが変わらなくても、物価の変化によって為替の実力は変わります。それを判断する基準として用いられているのが円の実質実効為替レートです。この実効レートとはどのような意味を持っているかと言うと、要するに円ドルだけを見ず、円とユーロ、円と人民元、円と韓国のウォンなど、いろいろな通貨の平均をとるということです。
具体的には、日本とそれぞれの国の間の貿易額の大きさのようなものをウエイトとして、いろいろな通貨との関係を平均的に見る、これが実効レートです。したがって、よく新聞等で議論されている実質実効為替レートとは、いろいろな通貨と円の為替レートを平均した上で、それを物価で調整したということです。
このグラフから名目レートの変動に惑わされることなく自国通貨の実力が分かります。円高と言われていた2010年~2011年頃は実質レートでみると思ったより円高ではなかったこと。この時期を振り返ると確かに円高が騒がれていて日経平均は一万円を割る史上空前の低水準でした。しかし海外からの輸入品は安く買えるなど円高の恩恵はありました。デフレの中で給料は頭打ちでしたが、生活するには困りませんでした。つまりこの時期の円高は企業の経営努力により実力で乗り切ることができたのだ
この状況が良かったとは言いませんが、物価が安いというのは庶民感覚からすれば大変助かったなと思います。それから2012年に第二次安倍政権下で金融緩和という大ナタを振るい名目も実質実効為替レートも円安に大きく舵を切ることになります。
金融緩和は日本の財政を立て直すには最善の策であるとは思いますが、国力を強化する政策を疎かにしたことで、誘導された円安が日本経済の足かせとなったことは言うまでもありません。企業の収益は増えましたが、日本経済の先行きを案じて設備投資は消極的となり、そこで働く従業員の給料も頭打ち、そして正社員よりもアルバイトなどの非正規が増えている現状を鑑みれば、日本社会にとって良い方向に向かっているとは言えません。
現在の日本の実質実効為替レートは1970年代にまでさかのぼる史上空前の円安と言われています。為替アナリストからは「悪い円安」と揶揄されています。かつての国力があれば円安など気にすることありませんが、日本今の脆弱な経済体質は今後に大きな禍根を残すことに繋がり非常に心配です。
為替相場の変動で国民生活に影響を来すことはありませんでしたが、現に食品や原油などの物価高騰は影響しているのではないでしょうか?為替の名目ではなく実質実効レートで見ることが重要であることがお分かりいただけると思います。