ボクシングという競技、オリンピックから競技種目が外される噂がたつなど、ややマイナーなイメージがありますが、プロの世界に目を向けると世界に名を轟かせる人気選手には大金が舞い込む夢のある競技です。先日、ボクシングの井上尚弥選手の世界タイトルマッチが行われたのですが、相手はWBC・WBO世界スーパーバンタム級チャンピオンのスティーブン・フルトン(アメリカ)です。既に3階級制覇を達成している井上選手が4階級目の戴冠を掛けてのタイトルマッチでしたが8ラウンドKOで井上選手が勝利しました、
相手は一階級上で2団体の世界ベルトを統一していて、且つプロ入り以来負け知らずのスーパーチャンピオンです。さすがの井上選手も厳しい戦いになると予想しましたが、蓋をあけてみれば思ったより実力差がありました。ボクシング全階級を通じて誰が最強であるかを指す称号パウンドフォーパウンド(PFP)の一位に推されるなど底知れぬ井上尚哉の実力ですが、このビッグマッチは地上波では放送されませんでした。
フルトンVS井上戦を放送したのはNTTdocomoが提供する動画配信サービスのLemino(レミノ)です。docomoはかつてdTVという動画配信サービスがありましたが、それをリニューアルした形で2023年4月にLeminoがスタートしました。この新しくできた動画配信サービスがこのビッグマッチを独占することになるのですが、しかし今まで井上選手は地上波の放送で試合を中継されていたのに、なぜネット配信に移行したのか?Leminoに契約しなければ観ることはできないのですから腑に落ちませんが、最近は格闘技系のビッグマッチがネット配信に移行されることが多いそうです。
地上波のテレビ中継激減により衛星放送へ
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世界的スポーツビッグイベントとして一番に挙げられるのがオリンピックです。オリンピックの放映権料は開催のたびに増えていってる状況ですが、現在も地上波で放送中継されています。アメリカの三大ネットワークの一つであるNBC放送は現在、五輪放映権を独占しており今後もしばらくNBCの独壇場が続くものと思われます。国の威信をかけて多くの競技アスリートが集結し、全世界が注目するスポーツビッグ・イベントですから放映権料が高額になっても誰でもただで見ることができるのは視聴者としては嬉しいことです。また野球やサッカーの代表戦や注目のリーグ戦は地上波では必ず放送されていますが、観たいスポーツ中継を無料で観ることは贅沢でも何でもないこれまで当然だったのです
一方で、井上選手の例もあるように格闘技系は地上波でのテレビ中継はあまり見なくなりました。替わって中継するようになったのはネット配信です。国対国というよりは、個々の選手同士の競い合いなので一個の放送事業者が参入しやすいからです。格闘技と言ってもボクシング、プロレス、K1、総合格闘技など色々ありますが、いずれも過去には地上波のゴールデンタイムで大々的に放送されていて視聴率も稼げるドル箱コンテンツだったのです。それが今や放送はネット通信に取って代わっているのが現状なのです。
格闘技で一番古い歴史を持つのがボクシングです。ボクシングのテレビ中継はテレビ創世記から中継されてきました。特に世界戦となると、選手の有名無名拘わらず地上波で必ずゴールデンタイムで放送されるほど国民的関心が高く高視聴率をたたき出していたのです。しかし時代の流れとともにスポーツ競技の多様化もあり、一部の人気選手を除いてボクシングでは視聴率が取れなくなったのです。世界戦自体を放送しなくなるなどボクシング人気衰退の時が訪れました。
そんな地上波が見向きもしない世界戦中継に名乗りを挙げたのがWOWOWやスポーツ専門チャンネルなどの衛星放送でした。衛星放送は視聴者がそのチャンネルに契約しないと視聴することはできませんので、コアなボクシングファンが試合目当てに衛星放送を契約していくことになります。
衛星放送の中でもWOWOWは1991(平成3)年4月の開局から放送している『エキサイトマッチ』は世界戦を中心とした全世界のプロボクシングビッグマッチを放送し好評を博します。WOWOWといえばボクシングと形容されるくらいボクシング中継に熱心でしたが、中継は日本人を除く海外選手が主でした。しかし遂に日本人選手の世界戦中継が実現します。1994(平成6)年3月に行われたWBA世界Jr.フェザー級戦のウィルフレド・バスケスVS葛西裕一戦です。
当時葛西は日本ボクシング界期待のホープであり、ランキングはWBA・Cともに世界一位に位置する実力も人気も高かった選手です。名門帝拳ジムに所属し、世界戦以前の試合は日本テレビが独占して試合を中継していました。世界戦でも当然日本テレビが中継するものと思われましたが、WOWOWが独占中継することになったのです。なぜWOWOWが中継することになったのかは詳細は不明ですが、結果は葛西のKO負け、それも1Rの惨敗でした。期待が高かっただけに残念でしたが、放送したWOWOWとしても僅か1ラウンドしか中継できなかったという衛星放送初の日本人ボクサー登場はほろ苦い中継となりましたが、ともかくこの試合以降日本人選手が続々WOWOW中継に登場することになります。
PPVがビッグマッチを生む
ボクシング中継が以前より視聴率が稼げなくなって地上波テレビも世界戦と言えどもなかなか中継してくれなくなりましたが、先述した通り、WOWOWなどの衛星放送が率先してボクシング中継するようになりました。
ちなみに地上波と衛星では圧倒的に地上波の方がスポンサーが付きやすいし、単価も高いのでファイトマネーは高くなります。いわゆる地上波から漏れた世界戦は衛星がカバーする形になりました。ところが衛星放送が試みた新システム導入が大きな転換点となります。
PPV(ペイ・パー・ビュー)とはスポーツ競技や音楽ライブの一番組ごとに料金を支払って視聴する有料コンテンツシステムです。
ケーブルテレビや衛星放送、インターネットを介して番組を配信するチャンネル単位の契約となる定額制とは別に料金が発生しますが、アメリカでは古くからケーブルテレビで導入されており、1975(昭和60)年にはモハメド・アリのボクシング世界戦がPPV初導入と記録されています。
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海外でのビッグマッチはPPVが主流となり、それに伴い選手の報酬であるファイトマネーも上昇していくことになります。地上波ではスポンサーも限られていて興行主に支払われる放映権料も常識の範囲内となるためファイトマネーも頭打ちになります。
PPVでは試合ごとにお金を支払う視聴者を募るので視聴者すなわち契約者数が多ければ多いほど放送業者は収益をあげることになります。選手のファイトマネーは売上に応じて配分されることになり地上波では到底支払えない巨額のファイトマネーが得られることになるのです。日本でもいくつかの格闘技マッチでPPVを導入しており、とりわけ格闘技のビッグマッチでは驚異的な売上を記録していますが、これによる副産物として大金が絡むビッグマッチを編成しやすくなったことです。
実現不可能と言われたビッグマッチが海外で続々実現したのもPPVにより興行に大金が入るようになり、選手やプロモーターに高額報酬を支払うことができるようになったからです。絶対できないと言われていたドリームマッチが夢ではなくなり実現する。ファンにとってはありがたいことですし、PPVがもたらしてくれた功績と言えるでしょう。
地上波では払えなくなった高額なファイトマネー
近年では井上尚哉選手の他に村田諒太、井岡一翔など国内でも指折りの人気実力選手がPPVの試合に進出しています。その媒体もインターネットを介したネット配信放送が主流となりつつあります。
ネット配信はネット配信専用チャンネルの他にNHKや民放の地上波が立ち上げたネット配信サービスがあります。またスカパーやWOWOWといった衛星放送もアンテナ無しでネット配信で視聴できるようになっており、放送形態の主流はネット配信に変わりつつあります。
ちなみに井上尚弥選手の試合の両者のファイトマネーは計10億円でこれを対戦者同士で分けることになり、一人分け前5億円入ることになります。かつてこんな大金が舞い込むファイトマネーがかかった試合が国内であったでしょうか?スポンサー頼りの地上波では無理ですよね。しかしネット配信の問題点としては井上選手の試合を今後は気軽に見れなくなることです。中継したLeminoはPPVではなく定額契約で視聴可能でしたが、次戦もここで中継するとは限りません。試合の度ごとに違うチャンネルで中継となり、その度にチャンネル契約しなければならなくなる可能性があり、そうなるとちょっと辛いですね。
既にボクシングはじめ格闘技系ではネット配信を絡めた興行が主流となりつつあります。地上波では比べ物にならない高額な興行収入が得られるので配信サービスは興行主からすれば大変魅力的でしょう。一方で地上波は今後ネット配信からあぶれたコンテンツを拾うことに。今までとは逆の立場になることになるかも知れませんね(^_^;)
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