日本政府がコロナ禍を受けて緊急経済対策の目玉として打ち出したGo To トラベルに続く第2弾としてスタートしたのが、飲食店と食材を提供する農林漁場者を支援するGo To イートで、10月1日より開始となりました。しかし思わぬ制度の抜け穴が見つかり、それが悪用されたことで社会問題となりました。どのような抜け穴なのか?これまでの経緯と制度内容を含めて検証してみたいと思います。
Go To イートを利用するには
GoToイートの利用方法は大きく分けて2つあります。
①お得なプレミアム付き食事券を買う
②オンラインで飲食予約をする
このどちらかで利用できます。
①のプレミアム付き食事券は、各地域の販売窓口などで買えます。例えば1セット1万円の食事券を買うと、1万2500円分の食事券がもらえます。この2500円、25%上乗せ分がお得な部分となり、1回あたり2万円分までの食事券が買えます。 食事券は「500円券」「1000円券」などの束になっていて、買った地域の登録飲食店で使うことができます。ただしおつりは出ません。基本的には「都道府県単位」で、例えば埼玉県で買った食事券は埼玉県で使えるのです。
この食事券を使えるお店はいわゆる「外食」にあたる飲食店で、店内での飲食がメインの店です。 レストランなどが自分たちで行うテイクアウトやデリバリーには使えますが、デリバリーや持ち帰りの専門店、宅配ピザやお弁当屋さん、キッチンカーなど。カラオケ店や接待を伴う飲食店も対象外となります。
②の「オンラインで飲食予約してポイントゲット」の仕組みは、「ぐるなび」や「ホットペッパー」「食べログ」といったグルメ系の予約サイトで予約をして対象店で食事をすることで、1回につきランチは500円分、ディナーは1000円分のポイントがもらえるというものです。このポイントは次回の食事で使え、同じ店じゃなくても使えます。食事の金額の設定はなく何回でも使えます。
このGo Toイートの全体の予算は767億円と決まっており、1人1万円分買うと約3000万人分で国民全員には届かないので基本的にどちらも早い者勝ちになります。食事券の販売やポイントの付与はどちらも2021年の1月末までで、使用期限は2021年3月末となります。
という概要ですが、今回のGo To イートの制度が悪用され利用された店舗が被害を受けるトラブルが起きたのです。
錬金術と無限ループ
今回明るみになった悪用とは②の「オンラインで飲食予約してポイントゲット」を利用した錬金術と呼ばれる制度の穴を突いたやり方です。
これは、指定されたグルメサイトを通じて予約した飲食店でディナーをすると1,000円分のポイントが付与されるのは先述した通りなのですが、その店で1,000円以下の食事をして差額をいただくという手法です。この「錬金術」に関しては、すべてのメニューが税抜き298円で、1品だけの注文でもいい居酒屋チェーンの「鳥貴族」がターゲットになりました。
「鳥貴族」に予約を入れ、その店で1品だけ食べれば税込み327円なので、1円も払わずに673円のポイントが手に入ります。これにより「鳥貴族」の複数の店に時間差で予約を入れて、1日に何店舗も回る人が次々と現われました。ネット上では「トリキ錬金術」などと呼ばれて拡散され、多くの店舗が被害を受けたのです。
ポイントは国から出るからお店の被害にはならないのでは?という声もあるようですが、その店が登録しているグルメサイトを通じて予約した客が来ると、その店はグルメサイトに「送客手数料」を支払わなければならず、300円ほどの利用額では利益が出ないからです。
鳥貴族 GO TOイートの利用はコース料理だけに限定
— カネナシオペラクン (@KanenashiOpera_) October 8, 2020
1品だけ注文し1000円分のポイント受け取る利用法が問題に。 #トリキ錬金術 pic.twitter.com/pdz7ftDAi2
これにより鳥貴族は対応を見直し、ポイント対象を「1,000円以上のコース料理」に限定しました。こうした利用料金の下限を設けずにポイントを付与していた店は他にもあるので、Go To イートを所管する農林水産省は8日、「ポイント以下の金額の飲食ができないように」と各グルメサイトに求めました。そして、この「錬金術」は収まったのですが、制度の穴を突く新たな手法が登場しました。それが「無限ループ」です。
予約した飲食店で1,000円ちょうどの食事をすると1,000円分のポイントが付与されるので、翌日も予約して1,000円ちょうどの食事をして、前日の貰ったポイントで支払う。そうすると、その日の分のポイントが付与されるので、その翌日も予約して同じことを繰り返す。こうすれば、自分が支払うのは最初の1,000円だけで、後は永久に夕食がタダで食べられるという手法です。
「錬金術」にしろ「無限ループ」にしろ法の抜け穴を突いたやり方ですが、どちらも合法なので、これを悪用したからと言って罪に問われることはありません。問題はこうした事態を予測せずに制度を実施した国に問題があると言えるでしょう。
最も恩恵が受けられたのは?
鳥貴族に関しては、被害を被った側となりますが、その一方で制度の恩恵を得られたのが、「ぐるなび」や「ホットペッパー」「食べログ」といった予約サイトなのです。グルメサイト側は予約を受け付け「送客手数料」を受け取れるだけなので制度の抜け穴を利用されても何ら影響は受けません。むしろ予約が増えて利益をかなり出していることでしょう。この制度の一人勝ちはグルメサイトなのです。
お店側は被害だけではなく、制度の欠陥が見つかったことで、対応を急がされ余計な労力を強いられることになりました。Go To イートをを導入した国としても、コロナ禍の影響で飲食店や食材提供者を助けたい気持ちは分かりますが早急過ぎましたね。生活困窮者が増えていますからお得な利用方法に飛びつく人が増えるのも仕方がないのかも知れません。しかし社会全体の現状を鑑みれば、特定の事業者だけが儲かるシステムよりも、社会全体が恩恵を受けられるより良いシステムを導入するべきではなかったのでしょうか?