2020年10月1日より嗜好品であるたばこやビール類の税率が変わりました。これによりたばこは一律値上げとなりましたが、ビール類は種類によって値下げされたり、据え置かれたり、値上がりしたりと複雑な税率変更となっていますが、実はビール類に充てられる酒税は将来同じ税率になることが決まっているのです。
と言うことはビール・発泡酒・第三のビールは同じ価格で店頭に並ぶことになるのでしょうか?でもそうなればビールしか選ばなくなり、発泡酒や第3のビールは売れなくなるでしょうし、ビール全体の需要が減ってしまう恐れも・・・そんな色々と考えさせられるビールにまつわる税の検証をしていきたいと思います。
ビール系飲料の税率の違い
ご存じのようにビール類はビール・発泡酒・第3のビールの三種類あり、それぞれ税率が異なります。それぞれの定義の違いは下記の通りです。
① ビールは、麦芽使用率が67%以上で、かつ醸造酒であるもの。原料は麦芽・ホップ・水・麦・米・とうもろこし・こうりゃん・ばれいしょ・でんぷん・糖質・カラメル、それ以外は使用できない。
② 発泡酒は麦芽使用料50%未満で麦芽・麦を使用されているが、ビールでは使用できない副原料が使われている。
③ 第3のビールは麦・麦芽を使わない。つまり正式にはビール類ではなく新ジャンルに分類される。
このような定義により酒税の棲み分けされているので麦芽使用率の高いビールが当然高くなり、次いで発泡酒、第3のビールと税率が下がっていくことになります。しかしその酒税は大幅な改正が行われることになります。
2016年12月 政府・与党は、酒税改革の概要を固め、10年がかりで段階的に簡素化する。ビール類については2026年10月に350ミリリットル当たり55円程度に一本化。酒税法上のビールの定義も見直す。日本酒やワインなどにかかる酒税は35円程度に統一する。(読売新聞 2016.12)
このように酒税の税率は2026年に一本化されることが決定されました。ビール派にとっては安くなるので大歓迎でしょう。しかし麦芽使用料も原材料も異なるものを果して一本化して良いのでしょうか?そもそも発泡酒や第3のビールはビールに掛けられた高い税率対策として開発されたものです。そうした苦心の上での技術改良を無駄にさせることが得策だとは思えません。
世界から見ても高い日本のビール
ビールにかかる税金は、酒税と消費税のダブルに課せられています。例えばビール大瓶(633ml)だと小売価格販売364円に対して、酒税139.26円、消費税(10%)33.09円となり商品価格の47%が税で占められています。
ビールの税率が商品価格の4割以上を占める国は世界的にも極めて珍しく、主要国の税率をみると、ビール大瓶(633ミリリットル)あたりの税額は日本が139円であるのに対して、イギリス71円、アメリカ12円、フランス10円、ドイツ7円に抑えられています(ビール酒造組合調べ)。さらに、醸造酒であるビールに対して、アルコール分1度あたりで、蒸留酒にくらべ高い酒税を課しているのは、主要諸国では日本だけ。欧米ではおおむね蒸留酒には高い税率、醸造酒であるビールやワインには低い税率が標準となっています。ちなみに日本のビールの酒税率は、ビール大国ドイツの17倍、アメリカの9倍です。
ビール大瓶の容量で100円で呑める国もあるそうで、各国によって物価や価値観に違いがあるにせよ、やはり半分近くを占める日本の税率は高いと言わざるを得ません。
メーカーが努力しては潰されるの繰り返し
取りやすいところから取るという安易な発想から酒税を標的に高い税率を課してきたことで、諸外国に比べて高い価格設定となった日本のビールですが、ここ30年物価の上がらない日本では国民は安い方に目が移りがちになり高い商品は敬遠されることになります。
それにメーカー側が対抗し、高い酒税の網の目をくぐる形で開発され1994(平成6年)に発泡酒が、2003(平成15年)に第3のビールが登場したのですが、今度はこれらを標的にされたことで大幅な値上げをせざるを得なくなります。恐らくビールと同率にされたこれらの商品の市場は縮小し、ビール業界全体の市場縮小に繋がることになるでしょう。
ビールが安くなるからと喜んでいてはいけないのです。潰されたことで税収が見込めなくなったら再び税金を上げるに決まっているからです。
理不尽な税率改正が犠牲を生み出すというある種、官による民業圧迫とも取れる愚かな行為を繰り返し、経済を衰退する日本の市場。ビールに限ったことではないですが、努力しても潰されるこうした風潮を止めさせる時が来ているのではないでしょうか?もっと寛容で経済活動を滞らせることのない税制であるべきだと思います。